医療法人 堺美歯科
ナカノ初芝歯科クリニック
スウェーデンの研修
こんにちは、理事長の中野です。
この度、私はスウェーデンとデンマークにてインプラントの研修を受講するため留学をして参りました。
なぜスウェーデンかと申しますとインプラント発祥の地であり、当院が使用しているアストラテックインプラントを開発した国でもあるからです。
また、スウェーデンではインプラントの症例数が日本より豊富であり、最新の研究情報が得られるからです。
現在日本でもインプラント治療は歯が無くなった所の治療方法として大変認知されてきました。
近代インプラントが開発されてから月日が流れ、入れ歯やブリッジに比べて大変優れている治療法である事が証明されてきました。
当院でもかなりの患者さまがその恩恵を受けております。
ただし欧米諸国といったインプラントの先進国に比べるとまだまだ日本は普及が遅れているのが現状です。
また、一連の報道でインプラントについてのネガティブなイメージを持たれている患者さまもたくさんおられます。
インプラント治療は通常の治療と異なり、術者の技量・知識により予後が大変左右されます。
そういう意味でも私たちインプラント治療を行う歯科医師として、最新の技術・知識を学ぶことは使命でもあります。
今回の留学は、私が所属するOSI(アストラテックインプラントの研修団体)の幹部をされている先生と同行させていただきました。
皆様数々のインプラント治療をされている先生ばかりです。
研修会場はスウェーデンとデンマークですが、幹部の先生は打ち合わせのため事前にスイスに向かう予定になっていたため、私も 同行させて頂くことにしました。
成田空港からコペンハーゲンまで飛行機で約12時間です。
OSI会長の松田先生と
副支部長の大門先生
OSI副支部長の中井先生と私
コペンハーゲンに着いてすぐにスイス行きの飛行機に乗り換えです。
スイスに着き打ち合わせを兼ねた食事会を行いました。
幹部の先生方は、大変熱心にお話をされていました。
普段聞くことが出来ない臨床の話もたくさん聞くことが出来て大変勉強になりました。
打ち合わせも終わり、親睦を兼ねてスイス市内観光とレマン湖クルーズをしました。
本当に綺麗な街並です
国連本部です
レマン湖のクルーズ船
無事スイスでの打ち合わせも終わりコペンハーゲンに向かいます。
スイスへの飛行機を待つまでの間に、OSIの会長である松田先生の症例をパソコンで拝見させて頂きました。
高度な臨床テクニックの数々を拝見させて頂き大変感謝しています。
OSI松田会長
松田会長ありがとうございました
飛行機でコペンハーゲンに移動です。
スイス上空
コペンハーゲンの空港からタクシーで会場まで向かいました。
ホテルに到着すると研修を受講する日本の歯科医師が集まっていました。
皆でホテルのレストランで夕食です。
食事中でも皆様熱心に診療の話をされていました。
研修当日です。
ホテルで朝食をすませたあと研修会場へ移動し早朝から講演です。
【以下講演の内容を記載しますが、講演の内容の全てではなく一部省略している事と、講演が英語であるため和訳のニュアンスや誤りの可能性がある事をご了承下さい。】
まずDr.Sten Isakssonによる講演です。
Dr.Sten Isakssonはスウェーデン国立ハルムスタッド病院前院長、顎顔面外科部長を歴任され口腔外科医としてあらゆる骨造成術に精通されています。
テーマは「合併症について」です。
インプラントや治療をする事により様々な合併症を起こす可能性があります。
事前に合併症が起きないようにする方法や、起こってしまった後のリカバリー方法について講演して頂きました。
日本では見られないようなリカバリー方法を学ぶ事が出来ました。
次の講演はDr.Jonas Peter Becktorです。
Dr.Jonas Peter Becktorはコペンハーゲンにて、インプラント外科のプライベートクリニックを開業されています。スウェーデン国立ハルムスタット病院顎顔面外科で勤務され、サイナスリフトなどの論文を多数執筆されている先生です。
ご自身の医院ではインプラントから矯正、歯牙移植と全般的に診療されています。
歯牙移植のケース、矯正のケースをご自身の症例で説明されました。
かなりレベルの高い治療で大変参考になりました。
また、それぞれの症例に合わせてどの治療法を選ぶ必要があるかを説明頂きました。
骨格の形により矯正で治すのかインプラントで治すのかをまず診断し、治療方法を決定することが重要だとおっしゃられていました。
また、スウェーデンでのインプラントの死亡事故の説明がありました。
2症例すべてが下顎の舌側骨をつらぬいたケースだそうです。
腸骨からの骨移植の症例は圧巻でした。
大幅に骨がないケースで行うそうです。
移植後2〜3週間で歩く事が出来るとの事でした。
腸骨からの骨移植は年間30〜40症例程されていて、骨が非常に少ないケースではほとんどこの方法を用いるそうです。
他の自家骨移植は下顎角から採取します。
ブロックで採るケース、ボーンスクレイパーで採るケースと症例によって使い分けているそうです。
上顎臼歯部に骨がないケースはサイナスリフトを行います。
自家骨を入れる方法は現在日本でもよく行われています。
ただし上顎洞内には必ずしも骨を入れないないといけない訳ではないとおっしゃられていました。
その証明に血液だけを上顎洞内に入れて、骨を造成している症例を発表されていました。
ただし難易度はかなり上がります。
ボーンブロックグラフトはほぼ100パーセント成功するそうですが、これもテクニック的にかなり難しいとおっしゃっていました。
しっかり骨を固定することがポイントで、固定が悪ければ感染の原因になります。
外傷のケースです。
二本抜歯を行いその後吸収したところにブロック骨を移植した後、二本インプラント埋入を行いました。
チタンメッシュの症例です。
使用方法についてのレクチャーがありました。
チタンメッシュの露出は感染を起こしているかどうかで撤去を行うかどうかを決めます。
最後の増骨方法としてスプリットクレストの説明がありました。
成功率の高い方法としてよく用いられるそうです。
Dr.IsakssonとDr.Becktorの講演で午前は終了です。
会場で軽く昼食をとったのち午後の講義は続きます。
次はDr.Martin Lindstromです。
彼はマルメ大学口腔外科の大学院で出血後の凝固について研究している先生です。
歯を抜いた時にワーファリン(抗凝固剤)を投薬している場合と投薬していない場合でどれくらいの出血量の差があるかを現在研究されています。しかしまだ研究段階でありはっきりとした事は決まっていないそうです。
また、抜歯やインプラントをするときに投薬を控えるべきか不明だそうです。
現在スウェーデンではワーファリンをのまれている患者さまがNOACという薬を飲む事が多くなっています。
次はOSI元会長の松川先生の講演です。
まず2000年から受講された数々のスウェーデン研修についてお話をされました。
次に2000年から2010年の10年間にご自身で行ったサイナスリフトの症例についての分析を発表されました。
サイナスリフトとは上顎洞に骨を移植する方法です。
上の顎にインプラントをするための十分な骨がない時に行われます。
サイナスリフトは予知性と必要性が高い治療であるとおっしゃっていました。
私もこの事に関しては同意見です。
たくさんのサイナスリフトの症例を拝見させて頂きました。
10年間にサイナスリフトだけで315症例おこなっており、素晴らしい症例の数々でした。
講義の後で個人的にお話を伺いましたところ、サイナスリフトだけで現在年間約50症例行っているとおっしゃっていました。単純に計算しても毎週サイナスリフト手術をしている事になります。
そんなゴッドハンドの松川先生が初めてサイナスリフトを行った症例を出し「最初は本当に難しかった。」とおっしゃっていました。
その後数々の研修を受けて現在に至る経緯をお聞きした時は大変感銘を受けました。
次にOSI現会長の松田先生の講演です。
松田先生も現在までのOSIとの関わりを話された後、ご自身の症例を1題発表されていました。
この症例は治療期間が4年かかったそうです。
拒食性の患者さまで、最初の口腔内状況は噛めるところがない状態でした。
それを松田先生が上下全てインプラントで再構成しました。
患者さまも最初は暗い表情でしたが、治療が終了するころには笑顔を取り戻しています。
歯の治療をすることにより患者さまの人生を変えた素晴らしい症例でした。
松田先生は事前に同行させて頂き、色々とお話をさせていただきましたが、語学力も高く人格的にも技術的にも優れた素晴らしい歯科医師です。
次はDr.Fredrik Hallmerです。
彼はマルメ大学でビスフォスフォネート系薬剤について研究されている先生です。
ビスフォスフォネート系薬剤は骨粗しょう症に用いられる薬剤です。
この薬剤が顎骨壊死と関連していることが近年問題になっています。
BRONJと呼ばれStage0〜3に分類されています。
数字が大きいほど壊死が広範囲で症状が悪化します。
抜歯によって顎骨壊死が起こったケース
特別の機械で蛍光の光をオペ前10日間に照射する事により破骨細胞の働きを抑えることが出来るそうです。
治療は壊死した骨の除去です。
顎骨壊死の最も多い原因が抜歯によるものです。
58症例中のうち36症例が抜歯で、4症例がインプラントによるものです。
上顎に比べて下顎に多いことも分かっています。
経口投与を3年以上続けている場合は顎骨壊死の確率がかなり高く、骨移植などはしない方がいいとの事です。
また静脈から投薬されている場合は外科的な治療はするべきではないとおっしゃっていました。
(質疑応答の際に質問するDr.Isakssonと回答するDr.Fredrik)
Dr.Lars Kristersonが講義の終了時に来られました。
私は約5年前に彼の講演とライブオペを拝見させて頂きました。
当時その治療技術の高さと素早さに驚かされた事を今でも覚えています。
現在80歳を越えたとの事ですがまだまだ健在なご様子でした。
講習会終了後にウェルカムパーティーがあり、スウェーデンの歯科医師と日本の歯科医師が食事をしながら懇親を深めました。
懇親会でDr.Becktorに今日の講演が素晴らしかった事をお伝えしたら「明日のマルメ大学のDr. Albrektssonの講義は素晴らしいので楽しみにして下さい。」とおっしゃっていました。
Dr.Becktorと会場にて
OSIファウンダーである伊藤雄作先生より研修の修了証を頂きました。
OSI幹部の先生と
感謝の気持ちを込めて最高顧問であるDr.Kristersonに記念品の贈呈がありました。
最後にDr.Kristersonのスピーチでパーティーを締めくくりました。
長い間OSIの最高顧問としてありがとうございました。
パーティー終了後クリスターソンと。
久々の再会で感動しました
コペンハーゲンでの研修が終わり、次はスウェーデンマルメ大学でのインプラント研修です。
デンマークからバスでスウェーデンに移動です。
マルメ大学に到着しました。
大学の建物に歴史を感じます。
大学の研修会場にはアストラテックインプラントの最新のカタログが置かれていました。
現在スウェーデンでは使用されていますが、日本では未認可のインプラントです。
未認可の為詳細は書けませんが、インプラントのシステムに大幅の改良が加えられています。
まず本日の研修の流れについて説明があり、講義が始まりました。
マルメ大学の一人目の講師はDr.Ann Wennerbergです。
彼女はマルメ大学歯学部の口腔補綴学教授をされています。
彼女からはインプラントの失敗とその原因についてのレクチャーがありました。
スウェーデンでは年間何万本とインプラント治療をしているため症例は豊富ですが、中には予後が不良なケースもあります。
なぜ悪くなったのかを分析する事がとても重要です。
2004年〜2013年の304の文献を分析した結果を講義されました。
失敗の原因は3つに分類されます。
①外科的な失敗によるもの
②患者さまの状態によるもの
③インプラントの性状によるもの
まず外科的な失敗です。
原因の一つとしてドリリング時の発熱があげられます。
そして技術的な問題があります。
初心者と熟練した歯科医師がおこなうのではインプラントの成功率が異なります。
次に患者さまの状態があげられます。
喫煙者や歯周病に罹患している患者さまはリスクが上がります。
骨量と骨質によって結果も異なります。
放射線治療を受けている患者さまや、静脈からビスフォスフォネート薬剤を用いる治療を受けている患者さまもリスクは高いです。
次にインプラントの問題です。
インプラントの長さや幅、デザイン、埋入本数によりどう異なるかのレクチャーがありました。
特にインプラントの表面性状については研究の結果を詳しくご説明頂きました。
休憩をはさみDr.Bjorn Klingeの講義です。
彼はマルメ大学の歯学部長をされています。
そして次期EAO(ヨーロッパインプラント学会)の会長でもあります。
彼からはインプラント周囲の組織破壊についてのレクチャーがありました。
Dr.Bjorn Klingeは感染と炎症を研究されているそうです。
ペリインプランタイティスについてお話されました。
ペリインプランタイティスとはインプラントの周囲に炎症を起こしている状態を言います。
インプラントは年間7000万本販売されており、その3パーセントがペリインプランタイティスになっていると過程すれば年間210万本がなっている事になります。
ペリインプランタイティスは日本でも問題になっています。
現在ペリインプランタイティスを逃れるインプラントはないとの事です。
データとしてペリインプランタイティスは患者さま単位で28〜56%のが、インプラント単位では12〜43%が罹患しているそうです。
ただしインプランタイティスの定義や研究者・国により確率は異なるそうです。
インプランタイティスについてはまだはっきりと分かっていない事が多いとおっしゃっていました。
なぜ起こるかは不明ですが、喫煙者や口腔内の清掃が悪い患者さまに起こりやすい事は分かっています。
実際にインプランタイティスになっているスライドを拝見させて頂きました。
軟組織のみに問題がある場合は口腔内清掃のみで対応します。
ただし骨まで吸収を起こしていると積極的に治療を行わなければなりません。
ただし現在のところ魔法のような器具や薬剤はないとの事です。
インプラント手術をする前に歯周病を治す事がインプランタイティスの予防になります。
また清掃しやすい上部構造をわれわれ歯科医師が作ること、患者さまには毎日の清掃をきちんとして頂くことと喫煙をやめて頂くことが重要です。
またインプランタイティスのリスクを把握する事と、治療後のメンテナンスをしていく事が予防につながります。
またインプラントを入れてから定期的にケアをしないのは絶対に良くないとおっしゃっていました。
午前の講演は終了です。
マルメ大学の食堂で昼食をとりました。
診療終了後のスウェーデンの歯科医師が昼食をとっていました。
昼食はかなりヘルシーな感じで私は好みの味でした。
食堂にいたマルメ大学の学生と一緒に。北欧は美男美女が多いです。
昼食後に大学を少し散策しました。
スウェーデンの過去と現在の建築物が並んでいます。
ポッセルトのバナナです。学生時代を思い出しました。
休憩を済ませた後はDr.Goran Urdeの講義です。
テーマは「合併症の理由と合併症をどうさけるか」です。
最初に前歯部の審美的なインプラント埋入の方法のレクチャーがありました。
可能な限り早い段階でアバットメント(土台)を入れる事を推奨していました。
この治療方法を『トゥースナウコンセプト』と言います。
アバットメントが緩まない事が重要で、その為にはアバットメントのスクリューのデザインが大事であるとおっしゃっていました。
そして信頼できるインプラントメーカーを用いる事と、信頼出来る歯科技工士に上部構造を依頼することが重要です。
オールオンフォー(4本のインプラントで全ての上部構造を支える術式)は必要ではないとおっしゃっていました。
その理由はカンチレバー(インプラントを埋入している位置より上部構造を奥に延長すること)が良くないためです。
カンチレバーは上顎で10ミリ、下顎で20ミリまでが限界だという事です。
インプラントオーバーデンチャー(インプラントで入れ歯を支える治療法)ではインプラントを何本埋入するべきかについてレクチャーがありました。
下顎ではインプラントを2本、上顎では4本かそれ以上埋入するのが最も予後が良いそうです。
下顎に3本又は4本インプラントを埋入するのはリスクが大きくなります。
そしてインプラントを埋入する位置とデンチャー(入れ歯)の設計が重要であるとおっしゃっていました。
最後はDr.Tomas Albrektssonの講義です。
Dr.Albrektssonはインプラントの成功基準を世界で最初に発表され、インプラントの表面性状の世界的権威として有名です。
私達インプラントをする歯科医師なら誰もが知っている重鎮の先生です。
テーマは「インプラントの歴史」そして「最新のインプラント治療」についてです。
インプラントの歴史ですが、最初は動物実験から始まりました。
当初は現在のように良好な結果が出なかったこともあり、インプラントに反対する歯科医師も沢山おられたそうです。
しかし長期に渡り良好な結果が出るとともに、インプラントも認知されるようになってきました。
(1962年)オッセオインテグレーションが発見される。
(1977年)オッセオインテグレーションがスウェーデンのFDAに認められる。
(1982年)国際的にオッセオインテグレーションが認められる。
2006年スウェーデンにおいて人口9万人中1万2200人がインプラントをしています。
次に近年のインプラントについてのレクチャーがありました。
インプラントの予後不良の原因として下記の3つが考えられるという事です。
1 poor implant designs=インプラントシステムに問題がある
2 poor clinical handeling=術者の技量に問題がある
3 ‘poor’ patients=患者さまの状態に問題がある
次にペリインプランタイティスについてです。
現在ペリインプランタイティスにかかっている確率の報告はたくさんあります。
定義も10個程あるので全てを含めると罹患率は40%を越えるのではないかとおっしゃっていました。
インプランタイティスになっている周りの骨は、生きている骨と死んでいる骨が両方あり、次第に全体的に骨が下がっていきます。
ペリインプランタイティスはコントロールされていても、10年後に5%はかかるとおっしゃっていました。
マルメ大学でのインプラント研修を終え、研修修了書の授与式です。
Dr. Albrektssonから修了書を頂きました。
研修を終えマルメ大学の診療室を見学させて頂きました。
シンプルで見晴らしのいい診療室でした。
マルメ大学の研修終了後の夕食に、インプラントメーカーのデンツプライ社が懇親会を準備してくれていました。
日本の歯科医師とスウェーデンの歯科医師で懇親を深めました。
大変綺麗なレストランで、食事も美味しく素晴らしい時間をすごせました。
デンツプライ社のお気遣いに大変感謝しております。ありがとうございました。
最終日はコペンハーゲンのフレデリクボー城の観光をしてまいりました。
研修の日程がかなりハードスケジュールであったため、お城の美しさに魅了されました。
今回はスイスに始まりデンマーク、スウェーデンと素晴らしい内容の研修に参加し、最新のインプラント治療について学ぶ事が出来た充実した留学でした。
日本だけではなく本場で学ぶ事は、インプラント治療に従事する歯科医師として大変重要な事であると実感しました。
この留学で学んだインプラントの知識を診療に活かせていけるよう日々精進してまいります。